ぷらりのぷらぷらツープラトン

グラブル/アニメ/音楽

劇場版騎空ライダーユドウフ Over “Quartzer”

…………僕ね………


大きくなったら…………






◆「歴史」の在り方◆

時代はすっかり令和一色。
「平成」などもう過去の話。
時代が変われど、世界は変わらないようです。
退屈で、平凡で、予定調和で。

この本によれば、普通の高校生 湯豆腐。彼には魔王にして時の王者「オーマ ユドウフ」となる未来が待っていた。
彼は騎空ライダー達との出会いを経て、彼らの力の象徴たるライドウォッチを受け継いでいく。いよいよ残されたライドウォッチはあとひとつ。私の憂鬱を晴らしてくれるような旅になるといいのですが…おっと、我が魔王がお目覚めのようです。

「キャスパリーグ、おはよう〜」

「どうした湯豆腐?」

「いや、なんか変な夢を見たんだ。」

「どんな夢だ?」

「うーん…なんていうか、子供みたいな声が…したような…?」

「なんだその曖昧な内容は。それよりテレビを見ろ。」

「どうかしたの?」

テレビにはニュース番組が映っている。レポーターが大袈裟に話をする。

「ご覧ください!こちらの屏風!今朝、突然屏風に描かれた一部分が変化していたということなんですよね!?」

どうやら博物館に展示された屏風絵のようだ。
カメラは屏風の一部分へとズームしていく。

「ん?あれってさぁ…」

「気付いたようだね、我が魔王。」

「そうだ…何故か戦国時代に描かれたはずの屏風に俺がいる…。」

屏風には勇しく先陣を切る騎空ライダーキャスパリーグの姿があった。

「ぷらりさん、これって…?」

「そう、なんらかの理由でキャスパリーグくんが過去に介入することになり、その結果現代に存在する屏風に影響が及んだ…ということだろうね。」

「なぜ俺が関係することになる?」

「それについては私から説明させてもらおう。」
突如、私たち以外の者の声が聞こえる。

「おわっ!?」
我が魔王が慌てて仰反る。
声の方向には…映像?ノイズのようにも見える、歪んだ状態の人物がホログラムで映し出されていた。

「私の名はクロム・スタインベルト。私は騎空ライダーONの生みの親だ。何者かが私の出生を辿り、戦国時代に介入。その結果として……ONの……」
音声が乱れる。

「どうやらあまり時間は無いようだ。急ぎこの場所に向かってくれ。」
空間に座標のようなものが映し出される。

しばらくしてクロムの姿は消えてしまった。

「行こう!」
我が魔王が声を上げる。
残されたライドウォッチ、騎空ライダーONの手掛かりになるかもしれない重要な情報だ。見逃す手はない。



示された座標を辿り、私たちは古い屋敷跡のような場所へ到着した。
その周囲を探ると、地下へと通じる隠し口があった。私たちはその中を探ろうと降りていく。

「…誰だ!?」
突如、またもや見知らぬ人物の声がする。

その人物が身構えようとした瞬間、

「待て!音也!私が彼らを呼んだんだ!」
ホログラフィックのクロム・スタインベルトが出現する。

「こいつらが…?」
彼は警戒を解いたようだ。

「…俺の名は音也。ここに来たのはクロムの祖先にまつわるある「遺物」を探していたからだ。」

「遺物?」

「あぁ。これだ。」
音也という人物はそう言うと懐から十字架のような物を取り出した。

と、その時──


「へぇー、助けを呼んで先手を取るとはね。流石はクロム・スタインベルト。」

新たな人物が姿を現す。だがいつの間に…?まるで気配が無かった。
さらに驚くべきことに、彼の腰にはキクウドライバーが装着されていた。

そして手にした未知のライドウォッチを起動させる──


      ナ ベ ル

「変身。」

     ライダータイム!

    騎空ライダーナベル!



「こいつからこれを守ってくれッ!!」
「任せて!」「いくぞ!」「ああ!」

「「「変身!!」」」

騎空ライダーユドウフ!
騎空ライダーキャスパリーグ
騎空ライダープラリ!

私たちの変身に音也も続く。

「Let's…変身!」

「言動!共演!いずれも〜NG〜!騎空ライダー音也〜!」

「……。」
あまりに情けない名乗りに一同が困惑する。
だがすぐに気を取り直し眼前の騎空ライダーナベルへ立ち向かう。

ナベルは巧みに足技を駆使して私たちの攻撃をいなす。数の不利をものともしない立ち回りだ。

そして一瞬の隙を見出したナベルがボウガンのような武器でエネルギー弾を射出。撃ちだされた弾は音也の手にしていた十字架を射抜いた。

「しまった…!」

十字架は砕け散り、目的を達成したかのようにナベルは告げる。
「ハハハッ!音也、お前ももうすぐ消えることになる…。」
動揺する私たちを残して、ナベルはその場から去っていた。
同時に音也のベルトが消滅していく…


私たちは状況を整理する為に話し合っていた。
「奴は戦国時代に遡り、クロムの祖先を消そうとしている。そうすればONも音也も存在しなかったことになる…。」

「…俺は「ダチ」を生き返らせる方法を探して戦ってる。もしクロムの存在が消えちまったらクロムが作り出したそのダチも居なかったことになっちまう…。頼む!力を貸してくれ…!」
音也が頭を下げる。それだけ真剣なのだろう。

「奴らはクロムの祖先に関係がある遺物を狙ってあの場所へ来た。そして現代に存在する遺物を破壊。となれば次は直接戦国時代に飛んで祖先を抹殺するだろうね。そうすることで現代と過去の両方からクロムの縁が消え去り、存在しなかったことになる。」

「行こう!戦国時代へ!」
迷わず我が魔王が声を上げる。

「でも、どうやって…?」
音也が疑問に思うのも無理はない。
時代を自由に行き来する手段など現代には存在しないのだ。

もっとも未来の技術を持つ我々には関係ないことなので…

「大丈夫!帰りを楽しみにしててよ!」
私たちは時空転移システムを搭載した巨大ロボ、「タイムマジーン」を使って過去へと遡る。



1575年 織田信長の軍勢と武田勝頼率いる武田軍がぶつかり合う「長篠の戦」。当事戦国最強と名高かった武田軍の騎馬隊を、織田信長は当時まだ浸透していなかったという大量の火縄銃を用いて圧倒。瞬く間に天下統一への地盤を固めることとなった。


まずは手がかりを集める必要がある。
我が魔王とキャスパリーグくんは変装し、城下町で情報収集へと向かった。

「ぷらりさんは変装しないんですか?」
「私までコスプレしたら"見てる人たち"が混乱するからね。」
「なんですかそれ?」
「気にする必要はないさ。」


各自で集めた情報を整理する。
「武田軍が"派手な化粧の女"を探しているらしいんだ。」
織田信長は戦の準備を進めているらしいな。」
「なるほどね。すると…どうやら武田軍にはクロムの血縁を消そうとしている連中が協力しているだろう。その"派手な化粧の女"とやらがクロムの祖先にあたる人物なのかもしれないね。となれば私たちは織田軍に協力し、武田軍よりも先にその女を保護する必要がある。」

クロム邸で襲いかかってきた者の目的を阻止するためにも、女を消させるわけにはいかない。おそらくその女を生き残らせることで、クロムの血統が守られて騎空ライダーONの誕生に繋がるのだろう。為すべき道は見えた。

我々は早速織田信長の城へ向かった。
のだが……



「待ってよ〜〜チィちゃ〜〜〜ん!!」
「アタシ、どうしても行きたい場所があるの。」


「……あれが…信長…?嘘だろ…」
我が魔王は絶句している。キャスパリーグくんも何だこれ…といった面持ちだ。無理もない。
後世に伝わっている信長のイメージといえば、冷徹で容赦が無く残酷な文字通り"魔王"と呼ばれるに相応しい人物と評されている。ところが今我々が目にしているこの人物は…

「殿!?どこに行かれるおつもりか!?」
「チィちゃんと散歩行くのーー!!邪魔すんなよ!!」
「ですが間もなく合戦が始まろうとしておりますゆえ!!何卒お戻りくだされ!!」
「うーるーせーなぁもう〜!ん?ちょうどいいなんかそれっぽい奴がいんじゃ〜ん!」
信長はキャスパリーグくんの方を見る。

「は?」
「君さ、こうやって…こうして…これ被ってさ…カッケェー!!いいね、いいね〜!どう見ても信長じゃ〜ん!?」
あっという間にキャスパリーグくんに鎧を着させて兜を被らせてしまう。

「じゃあ俺行くから!あとよろしくね!」

「はぁーーーー!?」
なんとキャスパリーグくんは信長の影武者にされてしまったようだ…ドンマイ。
それよりも気になることがあった。

「失礼、あの女性は一体?」
「あぁ彼女は"チィ・スタインベルト"という名前で最近オランダから訪れたそうです。なんでも名家の娘だとかで殿はすっかり彼女に夢中になっておりまして…」

どうやら探していた女性というのは彼女だったようだ。
「スタインベルト!?急いで追わなきゃ!」
「おい!俺はどうなる!?」
「キャスパリーグくんはそのまま信長として軍を率いてくれ。私と我が魔王で彼女を守る。」
「はぁ!?」
我々は信長とチィを追った。


残されたキャスパリーグくんは織田軍の陣地へと訪れていた。
先程の一連の流れを見ていた織田軍の武将が彼にささやく。
「キャスパリーグ殿…どうか信長様の代役として振る舞っていただけますよう何卒…」
「…こうなれば仕方ない。出来るだけやってみるか…。」

キャスパリーグくんは号令をかける。
「者共、出陣だーー!!」
「おおおおおおおおおおおおお!!」
織田軍はいよいよ戦場へと向かった。

ついに開戦した長篠の戦い
キャスパリーグくんは本陣で待機していた。
「戦況は!?」
「我が軍がやや押されています!武田軍に1人とてつもない強さの将がいるようで…」
「ならば俺が出る!!」

戦場では騎空ライダーナベルが暴れていた。現代兵器など存在しないこの時代に、騎空ライダーの力は圧倒的な脅威でしかない。
「アハハハ!武田軍のみんなー!派手な化粧の女を捕らえたら好きな物なんでも買ってあげるよー!?」
「うおおおおおおおおおお!!!」
武田軍の士気を上げている要因がこれか。

「怯むな!!進めぇーーーー!!」

キャスパリーグくんも変身して出陣する。その勇姿に守勢気味だった織田軍も奮い立つ。

両軍の総大将の一騎討ちにもつれ込む。
ナベルが蹴りを繰り出すと、キャスパリーグくんはそれを右手で弾き、左の拳で反撃する。
ナベルは素早く後ろへ下がるとすぐさまボウガンを射出するがキャスパリーグくんはその矢を手にした旗で器用に防ぐ。
お互い譲らない攻防だ。

「やるね。次はコイツでどうだ!」
ナベルは武田軍の陣地から出てきたタイムマジーンに乗り込む。
「卑怯だぞ!」
キャスパリーグくんもタイムマジーンを呼び寄せて乗り込む。

「な、なんじゃあありゃあーーー!!」
両軍の兵はただこの異様な戦いを見守るしかできない。彼らの目にこの兵器は鬼や妖の類にでも見えただろう。

砂埃を巻き上げながら2体のタイムマジーンがぶつかり合う。
まずキャスパリーグ機はボディー目掛けて殴りかかった。ナベル機は両腕をクロスしてしっかり受け止めると空中に浮上、勢いよくキャスパリーグ機に蹴りかかる。キャスパリーグ機は難なくかわし、着地したナベル機が体勢を整えようとわずかに止まったその一瞬に相手の脚を蹴ってバランスを崩した。よろめいたナベル機に連続で拳を叩き込んでいくキャスパリーグ機。ナベル機は煙を上げて動きを停止した。


一瞬静まり返る戦場。
すぐさま織田軍の兵が勝敗を見極めた。
「我らの勝利じゃあああああああ!!」

「あちゃー。まっ、もうこの時代に用はないかな。」
「待て!!」
タイムマジーンから脱出し、戦場を離脱していくナベルをキャスパリーグくんが追いかけていく。


…一方私たちは信長とチィを追って森の中へ来ていた。
「やっと追いついた!信長!僕たちが警護につくよ。」
「マジでー?助かる!」
「信長公、どこに向かっておられるのですか?」
「んー?なんかチィちゃんが行きたいところがあるっていうから連れて行ってあげようと思ってさー。」
「戦の直前にそんなことをしている場合では…」
「いいんじゃないかな。」
「けれど我が魔王…」
「信長の好きなようにやらせてあげたいんだ。」

その言葉を聞いた時、私は何とも言えない気持ちになったのを覚えている。
私にはひどく縁が無い言葉のように思えたから。



その時、近くの茂みが揺れた。
「誰だ!」

間髪入れずにその敵は構えた。
「ユドウフか。俺が潰す!」

ト レ ッ ギ ブ

「変身!」
    ライダータイム!

   騎空ライダートレッギブ!

また新たな刺客。おまけに忍者を連れているとは。

「行け、無課金対魔忍軍!!」

対抗して私たちも変身する。


「すっげー!!」
私たちの変身を見ていた信長が声を上げる。

「ここは僕たちに任せて信長はチィを追って!」

信長は頷くと森の奥へと走って行った。

「忍にはシノビで対抗するとしよう。」
私はミライドウォッチを起動した。

シノビ!

フューチャーリングシノビ!


私は高速の飛び蹴りで敵の忍をなぎ払う。
フューチャーリングシノビは素早い動きと忍法を用いたトリッキーな戦いを得意とするフォームだ。

我が魔王はトレッギブと交戦している。
我が魔王の攻撃を受けてもびくともしない様子を見るにパワータイプのライダーのようだ。
「オラッ…!こいつ…ッ!硬い…!」

加勢しようとした私の視界にナベルが映った。合戦の方はひと段落したということか。だがナベルがこちらに向かってきたということは…

「ユドウフ!待たせたな!」
やはりキャスパリーグくんも来た。
「形勢逆転だな。」

騎空ライダー!ユドウフ ユドウフ ユドウフⅡ!
リバイブ剛烈!
ぷらりギンガファイナリー!ファイナリー!

それぞれの強化フォームへと変身し、3対2。一気に決めさせてもらう。

超銀河エクスプロージョン!
一撃タイムバースト!


キングギリギリスラッシュ!

我々の攻撃を受けてナベルとトレッギブは消えた。
本当に終わったのだろうか?ともかく今は信長を追わなくては。


森を抜けるとそこには…

茫然と立ち尽くす信長の姿があった。
「そんな…そんな…」

「何があったの!?」
すると信長は泣きながら指を差した。

「パルテノス!会いたかった!」
「OH〜チィ…!嬉しすぎてワケわからないん…」
そこには異国の男性と抱き合うチィの姿があった。

「彼氏と会わせるためにここまで連れてきたのかよ〜〜〜!!俺悔しいよ…!!」
信長は泣き崩れる。

まさかの事態だ…

「信長、アタシをここまで無事に送り届けてくれた礼として、最新の火縄銃を8000丁あなたに授けます。」

…なるほどこれで武田軍を一掃することになるわけか。

「さすが信長!これを見越していたんですね!?」
「そんなわけないだろう我が魔王…」

すると信長の家臣が興味深そうに聞いてきた。
「"魔王"?湯豆腐殿は魔王なのでござるか?」
「ああ、我が魔王は偉大な存在だからね。」
「ほーう…ならば信長様の在り方も"魔王"として後世に語り継ぐでござるよ!さすれば誰も殿がこんなやつとは思うまい!ついでにキャスパリーグ殿の戦での活躍も書き記して広めようぞ!」

ああ、そういう…

「歴史」とはこうして作られていくのだろう。後世に伝えられるのが必ずしも全て真実とは限らないということだ。
──歪めようと思えば簡単に歪められる。みなさんもお忘れなきよう。







◆「空の管理者」◆
現代に帰還した私たちを出迎えたのは音也とクロムだった。
「みんな、ありがとう。おかげで私と、音也、そしてONの歴史は守られた。」

「これを受け取ってくれ。お前たちに渡さなきゃならない気がするんだ。」

ああ…

ついに…

「これで…全てのライドウォッチが…」

「…?なんだお前ら?俺なんでここにいるんだ?」
音也が…いや、君はもう「騎空ライダー音也」じゃないんだ。

──なぜなら騎空ライダー音也の歴史はたった今我が魔王に捧げたんだから。

「我が魔王、来て欲しい場所があるんだ。」
「え…?」
「祝福の儀を行わなければ。」
「そうなんですか?じゃあ行きますか!」


巨大な古墳。古の時代の大王が築かせた権力の象徴。此度の儀に相応しい舞台だ。我が魔王はついに成し遂げた。

成し遂げてしまった。

盛大に祝わなければ無礼というもの。


おおよそこの場には相応しくないほどの大観衆が見守る中、ゆっくりとこの場に現れた我が魔王。
「こんなに大勢の人が…?」
「全ては我が魔王の為です。さぁ、あちらへ…」

我が魔王はゆっくりと階段を上っていく。ここに至るまでのこれまでの旅を思い返してさぞや感慨深いことだろう。今一時は感傷に浸るのも良い。

頂上へ至ったその瞬間──




「良い表情をするようになったじゃないか。"替え玉"の王が。」

「今までご苦労だったな。」

「あんたは…?」

「俺は…「木村唯豆腐」だ。」

「"我が魔王"、こちらを。」
私は全てのライドウォッチを我が魔王に差し出した。

「ぷらり、よくやった。」


こうして全てのライドウォッチは我が魔王の物となり、GRANBLUE FANTASYは歴史から消滅しましたとさ。
めでたしめでたし。
これが、騎空士の歴史の最後の1ページです。


「ぷらりさん…?嘘だよな…?」
「気を落とす必要はないさ。この"計画書"の通りに、私が導いただけだ。」

「どういうことだ!?」



「俺たちは"クォーツァー"、空の管理者だ!!」

「おかしいと思わなかったのか?自分だけやけにヒヒイロカネが落ちると。」
「それは…」

全ては「力を持つ選ばれし者」だと思い込ませるための演出に過ぎない。

「お前の役目は終わりだ。」
我が魔王は頂上から湯豆腐を蹴り落とす。

「やめてくれ〜〜〜〜〜!!」
転がり落ちていく湯豆腐。無様なものだ。何も知らず、何も為せないまま消えていく。これが、くだらない覇道の行き着く先だ。



キャスパリーグくんがライドウォッチを奪還するべくこちらへ向かっているとの知らせが入った。
「私にお任せください、我が魔王。」
「頼んだ。俺は"準備"に入る。」


情けというわけではないが、私が相手になろう。
クォーツァーの本拠地から少し離れた広場で私とキャスパリーグくんは対峙した。

「結局お前は敵だったというわけだ!」
「決着をつけよう。」

「「変身!」」

ぷらりギンガファイナリー!
リバイブ剛烈!

先ずは出方を伺う。キャスパリバイブ剛烈のパワーは驚異的だが、手の内は読めている。私はギンガタイヨウへと切り替えると掌からの灼熱波で牽制する。装甲は物理には強いがこうした特殊攻撃には弱い。
耐え兼ねたキャスパリーグくんは…やはりリバイブ疾風に切り替える。
すかさず私はギンガワクセイに切り替え必殺技を発動させる。

水金地火木土天冥海エクスプロージョン!

上空から降り注ぐ無数の隕石をリバイブ疾風の高速移動で避け続けるキャスパリーグくんだが、これでトドメだ。すでにギンガファイナリーへと再び移行していた私は重力操作でキャスパリーグくんを隕石の方向へと誘導、直撃させた。

「ぐああああああああああ!!」
キャスパリーグくんの変身が解除される。勝負ありだ。

敗者にかける言葉はない。私はその場を去ろうとする。
「ぷらり…お前と俺は似た者同士だ。湯豆腐と出会い、共に戦う中で…いつのまにかあいつに惹かれていたんだ!!」
「!!」

あまりにも馬鹿げている。

「うるさいッッ!!」

「お前だって本当は気付いているはずだ!湯豆腐がお前たちの思い通りになるような器じゃないことを…!」
「そもそも君たちと私とでは根本が違うんだ!私はクォーツァー、空を導く側の人間だ!君たち過去の遺物とは違う!」

柄にもなく熱くなってしまった。
キャスパリーグくんの言葉がどうしてこんなにも腹立たしいのかは分からない。







湯豆腐は捕らえられ、地下へ監禁されていた。


私は牢を訪れていた。なぜそうしたかは分からない。最後の別れを告げるためか、それとも何かを期待していたのか、自分の心すら分からないのに他人に何を求めるのだろう。
ただ私は、「私自身」を分かりたかったのかもしれない。

「やぁ。」
「…ぷらりさんもクォーツァーだったんですね…。」
「その通りだ。」
「どうして……」

湯豆腐は打ちひしがれている。現状が理解できない、理解したくない。
けれど彼には知る権利があるだろう。
私は真実を教えてあげることにした。

「そもそも"騎空士"がいけないんだ。民度も協調性も最悪だとソシャゲ界でも評判が悪くてね。だから我々クォーツァーは考えた。名だたる騎空士の歴史を君に集めて"騎空ライダーユドウフ"として完成させようと。その為に君にライドウォッチを集めさせたんだ。」

「ふざけるな!!それじゃあ…僕がライダーの力を奪ったってことじゃないか!!」
「見事に集めてくれた。」
「みんな喜んでライドウォッチを渡してくれたのに…!」
「人が良さそうな君を選んで正解だったよ。」

「ぷらりさんは…なんでクォーツァーに?」
「私は"優しい騎空士"になりたいと、以前言ったよね。そのためさ。」
「……なれるといいですね。」

私は牢に背を向け立ち去ろうとする。
これでいい。



「私は嫌いじゃなかったよ。君を"我が魔王"と呼ぶことが。」








残された湯豆腐は絶望していた。
自分の使命だと信じてきた旅がその実全て他人の計画に踊らされていたに過ぎないという事実。仲間だと思っていた人物の裏切り。到底信じられない。

ふと、ぼんやりと眺めた向かいの牢に気配を感じて視線を移す。

「誰かいるの?」

「珍しいな。ここに人が来るなんて。」
暗がりの中で声の主が徐々にはっきりと見えてきた。

「あなたは…」

「俺の名はトキ。昔は初めて十天の極みに至った者として少しは名を馳せたが、今じゃこの有様だ。
坊主は何をしでかしたんだい?」

「僕は…グラブルを終わらせる手助けをしてしまいました。自分には力があると思い込んで…けど僕にそんな力なんてなかった。どこにでもいる"普通の高校生"だったんだ…。」

トキはただ湯豆腐の言葉を受け止めていた。何か思うところがあるのか、言葉を探しているようだった。

「空の奴らはさ、冷たいよな。散々持ち上げてた相手だろうと、何かひとつのきっかけさえあれば簡単に見捨てちまう。なんならそれを楽しみにさえしてるだろう。」

「…僕もツーラーとユーザーネームが同じで疑われたことがあります。」

「けどお前は助かった。何故だと思う?」

「それは……」

「お前には仲間の方が多かったんだ。あいつは違うって庇ってくれる連中が。俺は違った。下手に目立ちすぎたからかな…いつのまにか敵の方が多くなってた。」

トキは後悔しているだろうか?自分の歩んだ道のりを。湯豆腐を見つめるトキの眼差しはどこか力強かった。自分に為せなかった何かを託すように。見送るように。

「お前が望もうが望むまいが、それでもお前は選ばれた。選ばれたんだよ…!選ばれた者にはその責任があるんだ。今、全空の行末を背負ってるのは…お前なんじゃないか?」

「!!」

その時、上階で騒音が発生した。
何事かと思った湯豆腐だが即座に状況を理解した。
「助けに来たぜ!」
「音也さん!」

キャスパリーグくんが密かに音也ライドウォッチを音也へと返していたのだった。ライダーの力を取り戻した音也が駆け付けてくれた。

咄嗟にトキが居たはずの牢を見る湯豆腐だったがすでにその姿はなかった。
今は立ち止まっている場合ではない。
「…ありがとうございます。」
湯豆腐は静かに呟くと決意を新たに唯豆腐のもとへと向かうのだった。




その頃、地上には異変が訪れていた。
地下から現れた巨大な機械、ダイマジーンによって上空に形成されたワームホール

それらは全てクォーツァーの所業だった。
道行く通行人が不思議に空を見上げている。


「始めろ。」
唯豆腐の合図に合わせて突如ワームホールから強力なエネルギーが発生し始めた。

一瞬にして地上は地獄と化した。

人間が上空のワームホールへと吸い込まれていくその様は、にわかには信じ難い異常な光景であった。

同刻、地下から脱出してきた湯豆腐と音也は目の前の光景に唖然とした。

「おい…これは…まさか…!」

「"グラブルに関わった全ての人間"を消滅させるつもりなのか!?」

現在グラブルをプレイしている人間、過去にグラブルをプレイした人間、さらにたった今グラブルをインストールした人間、…挙げ句の果てには全くグラブルに縁がないような人間でも、おそらくは「グラブルの広告が裏表紙に掲載された本」を手にしただけで…上空のワームホールへと吸収されていく。

さらには自律機動型兵器「土抜鼠(マーモット)」が無関係の人間にまで襲いかかっていく。

「ふざけんなよ!」
「こんなことは…やめさせます!」

湯豆腐は唯豆腐の待つ古墳へと急いだ。

「見なよ!人も、建物も!グラブルに関わった物が全て吸収されていく!僕たちの作った"JavaScript"によってさぁ!!」
クォーツァーの1人が楽しそうに告げる。JavaScript…あんな物許されるはずがない。
湯豆腐は怒りに燃える。

「どうしてこんなことをするんだ!」

唯豆腐は至って真剣に答えた。
「お前たちの空って醜くないか?」
「"醜い"…?」
「ああ。バラバラで、凸凹で。まるで石ころだらけで歪な一本の道だ。それを俺らが真っ直ぐに整えてやろうって話。」

「何を…何を言ってるんだよ!?」

「俺たちはずっと空を観察してきた。で、導き出した結論はこうだ。"今の騎空士に価値など無い"。」

「これから変わることだってあるだろ!」

「なら教えてくれないか?他人を貶めることにしか愉しみを見出せない古参ユーザーと、たかがゲームに"意味"を求めようとする新規ユーザー。こいつらのどこに「未来」があるんだよ。」

「それは…!運営のやり方が下手だからユーザーも歪んでいくんじゃないのか!?」

「ほーら、すぐにそれだ!ハッハッハ!二言目には「運営がー」「やり方がー」だもんなぁ?まるでグラブルが全てだと信じてる奴の言い分だな?新コンテンツを寄越せとほざいたかと思えば、次にはめんどくさいと抜かして。キャラ性能に難癖つけるのは得意な癖にそのキャラを無料ガチャキャンペーンで引いたら、途端に他人を煽り始める。気付きのゲームが苦手なようだから教えてやるよ。

──お前ら人間として終わってるんだよ。」

「…もういい。お前たちは…許さない。」

根本的に分かり合えない。
互いにそれを理解した今、ただ決着をつけるのみ。

唯豆腐はやれやれといった表情でため息をついた。
そしてライドウォッチを起動させる。

エ ル ク ラ ン プ 

「変身!」


ライダータイム!

騎空ライダーエルクランプ!


「空に生きた者たちよ、その命、この王に返上しろ!!」


「湯豆腐!!」

そこへキャスパリーグくんが駆け付けた。手には奪還した全てのライドウォッチを持っている。どうやらうまく潜入したようだ。

湯豆腐が全てのライドウォッチを手にした瞬間、それら光と共に新たなひとつのライドウォッチへと姿を変えた。

「変身!」

グ ラ ン ド ユ ド ウ フ

グランドタイム!

グランドユドウフ!

「殺してくれと言っているような姿だな。」

「僕は空を救ってみせる!」

多くの騎空士との出会い、数えきれないほどのあんたんを通じて得たグランドユドウフの力。その力の真髄はボディーに付属している"ヒヒイロカネモニュメント"に触れることで発現する。

"ウサミン"!"寝るである"!"ろんろん"!


名だたるライダーを召喚し、共に戦ってもらうことが可能なのだ。

召喚されたライダー達は次々に土抜鼠を倒していく。
…だが、圧倒的な敵の量に次第にユドウフとキャスパリーグくんは追い込まれていく。

"ON"!"ロレンス"!"藤原肇"!

ユドウフはいよいよエルクランプとの戦いに突入する。

「ガイジカリバー!」
エルクランプの言葉に合わせてキクウドライバーから剣が顕現する。

"加藤鷹"!"藍染惣右介"!

ユドウフも剣と刀の名手を呼び出して対抗する。
だが…

エルクランプは難なく攻撃を受け止めると、ライダー達を流れるように次々と切り崩していく。

「なんで…!?騎空ライダーの力が通じない!?」
明らかに騎空ライダー達の能力が発揮されていないのだ。先ほどまでマーモットを相手取っていた時とはまるで戦闘力が違う。

「"騎空士"自体に意味がないからな!さらばだ、ユドウフ!!」

フィニッシュタイム!

エルクランプタイムブレーク!

エルクランプは赤い光を纏った回し蹴りで周囲の騎空ライダーを一掃する。
そのまま高く飛び上がると手にした剣を勢いよくユドウフへ突き出した。

「うわああああああああああああ!!!」
グランドユドウフの力を持ってしても全く歯が立たない力に、ユドウフは敗れた。

変身解除したユドウフの側でナベルとトレッギブを相手にしているキャスパリーグくんの姿があった。
だがここまで連続して戦いを乗り越えてきた彼にもはや余力はなく、あえなく変身解除へと追い込まれてしまった…


「…ここまでか……。」


力尽き気絶した湯豆腐。
その体はJavaScriptへと吸い込まれていく……

だが完全にJavaScriptの入り口へと到達する直前。

謎の黄金の扉が湯豆腐の体を包み込んでいた。








◆「生まれながらの王」◆
────ここは…


僕は…負けたのか…。
負けて…JavaScriptに吸収された…?
いや…だったらなんで意識があるんだ…?


湯豆腐が目覚めると、そこには何もない空間が広がっていた。



走馬灯のように、ある景色が映し出されていく。





幼い子供が、両親と共に笑いながら遊んでいる。



あれは…


僕…?



「ゆうちゃんは大きくなったら何になりたいの?」
母親が微笑みながら問いかけた。







「僕ね、大きくなったら"王様"になりたいんだ!それでね、困ってる人を助けてあげるんだ!」


そうだ…


「きっとなれるよ。」
父親が優しく頭を撫でる。


ずっと忘れていた…




その景色が風のように消えていく。




「思い出したか。若き日の私よ。」

そこには先ほどの景色を作り出していた人物が立っていた。
…オーマユドウフ。50年後の未来で最低最悪の魔王と称される僕自身。
だけど今ならわかるんだ。
あんたは僕で…本当は…


「お前は"生まれながらの王"などではない。だが、王になりたいと望んだのは他の誰でもない、お前自身の望みだ。
お前は何のために王になりたかったのだ?自分が特別な存在だと確かめるためか?それとも、他人を力で支配するためか?若き日の、私よ…」




意識が現代へと戻っていくのを感じる。



「違う!!」
湯豆腐は叫ぶ。

「騎空士も、それ以外の人達も関係ない!!」

「僕が王になりたいと思ったのは…!!」

全ての答えを。



「もっと世界を良くするためだッッ!!!!」


その答えに応じるかのように、眩い光と共に湯豆腐の手にライドウォッチが生み出された。






◆観測者の見る世界◆
昔話をしよう。舞台は未来だが。

ある時、空の管理者によってグラブルが、いや世界そのものが危機に陥ったことがあった。
その際ユドウフはオーマユドウフとして覚醒。たった1人で戦いに勝利した。
だが、彼の活躍は空の管理者によって歪められ、彼こそがあの災いを引き起こした張本人であると伝えられた。
生き残った者たちは結束してオーマユドウフに反抗。50年もの間戦い続けた。
彼こそが本当は世界を救った最高最善の王であるとは誰も知らないままに。

私にはクォーツァーとして活動する中である任務が与えられた。
オーマユドウフ、彼に仕えるフリをして情報を集めるというものだ。
私は指示通りにオーマユドウフに接触し任務を全うしていた。
そんなある日のことだ。

「ぷらりよ、世界は変えられると思うか?」

突然オーマユドウフが問いかけてきた。

「いいえ、それは不可能かと。」
「なぜ、そう思う?」
「そういう風にできているから、でしょうか。」
「フフフ、お前らしい答えだな。」

空が好きだった。
誰かと手を取り合えるから。
協力は美しいことだと思った。

けれど、次第に人はそれを忘れていった。
それでは満たされなくなってしまった。
協力は争いへ、協調は反発へ、尊重は軽蔑へ。

大好きだった空が、どんどん嫌いになっていった。
以前何をどんな風に楽しんでいたのかなんてもう思い出せない。

変えられるのなら、どんなに良いか。

「この世界が変わるとしたら、それは貴方が消滅した時でしょう。」
「お前はそれを望むか?」
「その時は銅像でも造らねばなりませんね。世に貴方の偉大さを広めねば。」
「フハハハハハ!それも、考えておくか。」
「その時は私が盛大に祝ってさしあげましょう。」







──現代、戦いの決着を観測すべく私は彼らを見ていた。湯豆腐は戦いに敗れ、JavaScriptへと吸収されていく。これで空は生まれ変わる。以前のように。

…本当にそうだろうか?
私が真に望むことは…


「変身!!」

なぜ?湯豆腐は力尽きたのではなかったのか?いや、あのライドウォッチは…


オ ー マ ユ ド ウ フ

キングタイム!

騎空ライダーユドウフオーマ!



ユドウフの変身と共にその背後に巨大な銅像が発生した。

オーマユドウフの銅像が。


こんな偽りの家臣の言葉を…

貴方は「家臣」の言葉として受け止めた…

「全て…分かっていたのですね…。」

オーマユドウフは自分の力をライドウォッチに託して継承させたのだ。かつての自分自身へと。最低最悪の未来を消滅させるために。世界を変えるために。

私の、本当の望みは…




◆エンドオブジョーカー◆


「祝え!!大魔王の力を受け継ぎ、全ての時代をしろしめす最終王者!!その名も騎空ライダーユドウフ・オーマフォームの誕生である!!!!」

「ぷらりさん…!」

「"好きなようにやれ"、君はそう言った。ならば私も好きなようにやらせてもらおう!!」

私は手にした逢魔降臨暦のページを破り捨てる。

この本自体が騎空士の歴史を縛りつける楔でもある。

「ぷらり…クォーツァーの誇りを忘れたか!!」
「誇り?馬鹿を言わないでもらおう!自分たちのいいように解釈を押しつけて…枠にはめ込むような歪んだ歴史なら私は必要ないッ!!」

「キャスパリーグくん。どうやら私と君は"似た者同士"らしい。」
「だからそう言っただろう。」

その時、1人の幼女に土抜鼠の刃が迫っていた。

「きゃっ…」


「やれやれ、弟子や空だけじゃなく世界そのもののピンチってことか。(ニチャア…)」

"ファイナルアタックライド オワオワオワリ!"

上空からの一撃が土抜鼠を破壊した。

「藤原…肇!?」
「おー湯豆腐、元気ー?」

騎空士の歴史を縛り付けていた楔が解き放たれたことにより、騎空ライダー達を縛り付けていた力が失われた。
ここから私達の反撃が始まる。

グラブルが出来なくなっちゃうのは困るよねー。」
「とっとと終わればいいとかいつも言ってないっけ?」


「あれは…りざれくしょん!内の堕天司たちを中心に結成されたDiscordグループ、"大乱交陰湿ゲイブラザーズ"!?」


「行きな!パルテノスッ!!」
「ワンワンワンッ!!」
「それがお前の"仲良しさん"か。カスだなぁ。」

「誰も覚えていないとしたって…為すべきことをするだけだ!」

土煙を上げて何かがこちらへ爆走してくる。
「星晶獣まで呼び出したのか!?」

それは…


「乙じゃーん^^」
「ガアアアアアアア!!!」
猛烈な勢いのままにトレッギブへと突撃し粉砕した。

「なんだあの騎空ライダーは!?」
ナベルが驚きの声を上げる。

「祝え!こんな一冊の本には収まりきらないほどに、騎空士の歴史は豊潤だ!」

ユドウフは迫りくる土抜鼠たちに手をかざし念動力を放ちながら進む。

ベキッ!と音を立てて吹き飛ばされた土抜鼠が壁にめり込む。

「ハアアアアアーーー!!」
ユドウフは背中のユニットを高速回転させて上空へと飛び立つ。
「フン…!!」
そしてダイマジーンへと手をかざす。
たちまちダイマジーンは塵になって消えていく。時間操作の極地…"対象が劣化して消滅する瞬間"まで一瞬にして時を飛ばしたのだ。
次々にダイマジーンを倒していくユドウフ。

一瞬。

一瞬の隙を突かれた。



背後からエルクランプのガイジカリバーが私の腹部を貫いた。
「ゴボッ…!」
「ぷらり、哀れなやつだ…」
鮮血が地を染めていく。


キャスパリーグくんが駆けつけてくる。
「おい!しっかりしろ!」

その声も遠のいて聞こえなくなっていく…



私に相応しい末路だ。
結局、誰かを利用して利用されて…そんな風にしか生きられなかった。

我が魔王、君に惹かれる理由がなんとなく分かってきたんだ。
未来を知るクォーツァーである私が、次に何が実装されるのか知っていてもどうして満たされないのか。

君たちは他ならない、今この瞬間を生きているから…だから眩しく見えるんだ…

君と出会ってから色を失っていた私の空が明るく照らし出されて見えた。

君から返しきれないモノを貰った。

"命"を与えられていたんだ……
ありがとう……


そうか…

自分以外の、たった1人の行く末を見守りたいと願うこの気持ちは…




私はなれたのかな?

"優しい騎空士"に─────






◆「俺たちの王」◆
「フン、馬鹿なやつだ。偽りの王などに従うからこうなる。」
エルクランプが嘲り笑い言い放つ。

「……違う。偽りの王なんかじゃない。あいつは…湯豆腐は俺たちの王だ!!みんな行けーーーー!!俺たちの王に続くんだ!!」
キャスパリーグは騎空ライダーを鼓舞する。
騎空ライダー達は失った仲間の気持ちに応えるように全力で戦う。

ユドウフはナベルと対峙していた。
ナベルは膝蹴りを繰り出しユドウフの首を狙う。

「ハァーーッ!!」
だがユドウフは念動力で難なく弾くとすかさず手にした時冠王剣「サイキョージカンギレード」で渾身の斬撃を浴びせた。

「バカな……!俺は…全てを手に入れるんだァァァァァァアアア!!」
悲痛な叫びを上げながらナベルが爆散する。

──ついに残す敵はエルクランプのみとなった。


「諦めろ!!」
「それで勝ったつもりか!?来い!ユドウフ!」

2人の王は激しくぶつかり合う。

「まるでツーラーのような力だなぁ!」
「黙れッ!!」
「ツーラーに憧れないユーザーなんかいないもんなァ!?」
「そんなわけないだろ!」
「別垢を同時に操作して召喚石を投げさせて、ゲーミングマウスにお気に入りURLへのショートカット登録をして高速周回して…楽しいよな?」
規約違反はしていないッ!!」
「ハハハッ!いつから規約違反ギリギリを狙うチキンレースファンタジーになっちまったんだろうなぁ!?」

怒涛の剣撃の応酬が生み出される。

「いっそ古戦場を完全なソロコンテンツにしちまうか!アハハハ!お前ら好きだもんな、ほらなんだっけ、「個人ランキングなんだからちゃんと自分1人だけの力で戦え」だっけ?ハッハッハッハ!!」
「お前!!他人の協力を何だと思って!!」
「知らねェよォ!他人…他人…!馬鹿みてぇによォ!!!」
エルクランプがさらに力を入れて剣を振る。

「可哀想なやつだ。」
ユドウフは至って冷静に剣を受け止める。
「他人なんて結局利用するためだけに存在してる!!みんな黙って……"僕"に…俺に従ってればいいんだァァァ!!」

「お前には一生分からないんだろうな。」
ユドウフは巧みな剣捌きでエルクランプのガイジカリバーを弾き飛ばした。
「クッ…!」
そのまま蹴りを腹部へと叩き込む。
「ガハッ!」

ついにエルクランプが膝をついた。

「…やむを得ん…!!」
エルクランプはキクウドライバーに装着されている自身のライドウォッチを外すと、かわりに腕に付属しているライドウォッチを起動した。

MG2!桜小路ルナ!

エルクランプの体が巨大な龍へと姿を変えた。

「おいおい、ツーラー擁護運営がよ。」
「ん…?肇さんどうしたんですか急に静かになって?」
「いやぁー、敵強そうだなぁ〜って。」
「お前ほんと喋るたびにニチャニチャ音鳴るな。粘着を司る天司ニチャエルか?」
「ニチャエルって何!?」
「他の天司に謝れよ。」
「俺の扱い何?」
「馬鹿言ってないで構えろ!来るぞ!」

「オオオオオオ!!お前たちのせいでグラブルはめちゃくちゃだアアアア!!」
エルクランプが巨体から想像もつかない速さで攻撃を繰り出す。
強烈な力で騎空ライダー達をまとめて襲う。

「チッ…!」
騎空ライダー達はファランクスでダメージを軽減する。
「オイファラ被せんなアホ!」
「きったねぇ石投げやがってよぉ!」
「デバフ入れろ役目でしょ」
「意味わかんない飛ばし方すんなよ」
その戦いぶりにはまるでまとまりがない。
ユドウフは思わず笑いをこぼした。

「これでいいんだ。確かに僕たち騎空士はみんなバラバラだ。得意な属性も、個性も。だけど…僕も、他の騎空士も、その瞬間瞬間を必死で駆け抜けて来た!!そうして出来上がった道は凸凹で当たり前だ!!バラバラで何が悪いッ!!」

ユドウフは騎空ライダー達を見渡す。
騎空ライダー達が頷く。

フィニッシュタイム!!

キングタイムブレーク!!

全員が一斉に飛び上がる。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!グラブル最高キーーーーック!!!!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

文字に象られた一撃がエルクランプの巨体を貫いた。
ついに最低最悪の魔王は葬られた。



「!!」

だが、まだ終わりではなかった。
ユドウフは消滅したはずのエルクランプの足元だった場所に倒れている少年の姿をしっかりと捉えていた。







◆海の向こうの追憶◆



居場所が無かった。



「クエルはほんときめーなぁ!ずっとゲームばっかして!」

別に珍しい話じゃあない。
中国はオンラインゲームが発達しているからといって、それが誰にでも受け入れられるわけじゃない。
「気持ち悪い」「オタク」罵倒されるのは、何も珍しくなんかない。

だから僕にとって友達はネットの中にしかいなかった。

グラブルというゲームを知った。
日本で作られたゲームで、人気上昇中のゲームのようだ。

いい機会だと思った。
一度、違う国を見てみたいと思っていたからだ。
…この場所から逃げ出したい、そんな気持ちもあった。
少なくとも日本に行けば、今と何かが変わる。


そう信じていた。






「チャイニーズはグラブルやんなよw」



ああ、結局


世界は変わらないんだな。


憎い。僕を受け入れない世界が。


「君も空に傷付けられた人間だね。」

ぷらりと名乗ったその男は僕にある人物を紹介した。

木村唯豆腐。
なんでも、この時代の人間ではない唯豆腐は僕の体を"依代"としてこの時代に君臨する魔王となるらしい。

どうだっていいさ。

空を変えられるのなら。

何だってしてやる。全てを利用して。








◆救い◆
少年はゆっくりと起き上がる。
眼前に映るユドウフの姿。
唯豆腐は失敗した…すぐに察する。

「君は…」
ユドウフが尋ねる。

こいつを

消せばいいんだな

「変身。」

「…!奴らの力を吸収したのか!?」

JavaScriptの応用だ。」
クエルプランとなった彼は騎空ライダー達へ手をかざした。謎の思念波が放たれる。

「連戦とか聞いてないんだが?」
「ルーム名ちゃんと記載しとけよ。」
「部屋主蹴る機能欲しくない?」
「草」

様子がおかしい。騎空ライダー達は背を向けて退散していく。

「何をした!?」
「不和をもたらす力。それが僕の能力だ。」

クエルプランの能力によって騎空ライダー達の協力を失ったユドウフ。
それでも戦うしかない。

ユドウフはクエルプランに殴りかかる。
「無駄だ。」
クエルプランは一切動かずに攻撃を受けた。
「何!?」

ユドウフの攻撃は確かに命中したはずだった。
しかし、クエルプランには全く通じていない。

「攻撃を吸収したのか…!」
「その通り。お返し、"マスタースパーク"」
「うわああああああああ!!」
クエルプランは掌から電撃を放った。
凄まじい痛みがユドウフの全身に走った。

「どうすれば…」
為す術はないのか?諦めかけたユドウフの頭に聞き慣れた声が響いた。

「家臣の力が必要みたいだね。我が魔王。」

消滅したはずの家臣の祈りが、光となってユドウフの手に届いた。

「これは…」

「闇雲に相手を傷付けるだけが戦いじゃない。これは戦いを終わらせるために必要な力だ。」
声が遠く離れていく。希望を託して。

「ありがとうございます、ぷらりさん。」

アーマータイム!

ぷらり!

「この力は…僕の最高最善の家臣が託してくれた!誰よりも優しかった騎空士の力だ!!」

「優しさ…?そんなもので世界を変えられるとでも思っているのか!!」
クエルプランがナベルのような身のこなしで素早く襲いかかってくる。

「僕はそう信じるッ!」
ユドウフはサイキョージカンギレードで攻撃を受け止める。
そのまま目一杯力を込めてクエルプランを押し返す。

「(さっきより力が上がっているだと?)」

素早く連続で斬りつけるユドウフ、クエルプランはやはり攻撃をかわさずに受け止める…が、

「何ッ!?」
今度は確実にダメージを受けていた。

「どういうことだ!僕の吸収を!?」
「憎しみだけで相手を傷付けるんじゃない。優しさを持って相手を制するんだ!」

ユドウフは念動力でクエルプランを拘束し、キクウドライバーを回転させる。

キングフィニッシュタイム!

ぷらりキングタイムブレーク!!

ユドウフの必殺技がクエルプランに直撃した。
クエルプランの変身が解かれる。

「どうして…」
クエルプランは仰向けに地面に倒れ、空を見上げる。

己の過ちと罪を悔やむかのように涙が溢れ出す。

「クエルさんは確かに間違ってしまいました。だけど…」

今のユドウフには分かる。

彼が、本当に欲しかったもの。
一番言って欲しかった言葉が。



「また一緒にグラブルしましょうよ。」



彼の戦いは終わった。
笑顔と共に──────。






◆未来へ◆
「終わったんだな。」
クエルプランの力が解かれ、正気を取り戻し帰ってきたキャスパリーグが告げる。

「うん。」

そして…

キャスパリーグの体が光の粒子となって消滅していく…

「そんな…!なんで!?」

「未来が変わったってことだ。感謝しているぞ、湯豆腐…」

元々、オーマユドウフが支配する世界線から来たキャスパリーグ
今、ユドウフがオーマフォームとなりオーマユドウフの歴史を継承したことによってその世界線は"無かった"ことになった。
その時代に生きていた者たちも、当然…


1人で帰路に着く湯豆腐。
その前にクォーツァーの残党が立ちはだかる。

「お前、本当にこれからグラブルが良くなっていくと思ってんのか!?」
「賭けてもいいぜ!絶対良くならねーよ。」
やはり彼らはまだ計画を諦められないようだ。

湯豆腐は優しく笑い、答えた。

「ぷらりさんや、キャスパリーグや、みんなが居たから今があって、未来へ続いていくんだ。その未来を…僕は生きたい。」

「…まっ、その未来も見てみたいかもな。」
「頑張れよ。」
クォーツァー達は訳有りげに顔を見合わせると消えていった。





「ただいま…。」
一人残された湯豆腐が誰もいない家へと帰宅する。




「やぁ、我が魔王。」


私は一番に出迎える。

「え?」


「ただいま…。」
キャスパリーグ君が気まずそうに言う。

「おかえり…って、逆でしょ。」

「というかどうなってる!?ぷらり説明しろ!お前死んだんじゃなかったのか!?」
「やだなぁキャスパリーグくん、そんなことは"どの本にも書かれていない"んだよ。」


どうやら彼らが少々協力してくれたようだね。
彼らまで味方につけるとは…さすがは我が魔王。
私の方は…この時代に書いていたブログが功を奏したかな。
この時代に生きていた事の証明に違いないからね。誰かが覚えていてくれる限り、存在は消えない。

「少し出かけてくるよ。」
私は言い残して出て行く。



◆世界は変えられる◆



場末の喫茶店
待ち合わせよりも少し早く着いたのに彼はしっかりと席についていた。
相変わらず律儀というか、堅いというか…


「久しぶり。」

「悪いね、急に呼んで。」
「んー、まぁ暇だから。」

「どうしたん?」
「単刀直入に言うとグラブルを辞めることにした。」
「んーーまぁ今のグラブルの感じだと仕方ないって感じはするなぁ。」
「それもあるけど、やりたいことが出来たからね。」
「ぷらりが?珍しいな。」
「物語を書いてみたくなった。」
「小説?まぁブログやってた感じ文章力だけはあるみたいだったしなw」
「だけとは、失礼な…」

私は運ばれてきた珈琲を口にする。
彼も続いた。
「んー、美味しい。」
「今更だけど珈琲が好きだからその名前にしたっていうのはどうかと思うね。」
「うるせぇw夕飯のメニューを採用するよりはマシだろ。」
「それは…ある。」

くだらない話で笑い合う。

「あの子は…どうだった?」
「素晴らしい物語を見せてくれたよ。本当に。」
「そっか。なんか懐かしいな。」
「本当に。結局、何がどうなるかなんて
誰にも分からないらしい。」

昔話に花が咲き、いつの間にか随分と時間が経っていた。
「もう行くよ。」
「そっか。元気でな。」

私は別れを告げて歩き出す。

来るときは雨だったが、どうやら止んだらしい。

ふいに近くの木の枝に鳥が止まった。
重みで葉が揺れ水滴が溢れて私の顔に落ちた。
思わず見上げると空には虹が架かっていた。

まったく、なかなか粋な旅立ちじゃあないか。

いつか、「世界は変わらない」と嘆いたことがある。
今は違う。



「誰かと関わる限り、世界は変わり続ける」

これが私の答えだ。


見たいものを、見たいように、見続ける。
それが、「生きる」ということだから。



この手にもう本はない。

己の運命を受け入れ、諦めるだけの刑死者は世界を見たいと旅立つ愚者に成った。






行こう。次の物語を探して…





私がご案内出来るのはここまでです。
ご清聴、誠にありがとうございました!